聴く力を失ったのか、僕たちは
聴くこと。僕たちが持っている能力の中で、もっとも使われていない力。みんな、誰が一番大きい声でしゃべれるか、競争しているようだ。じっくり相手の話を聴く人は決して多くない。広告も現実世界も同じだ。役員会議室では、最新ビジネス流行語が飛び交う。書類のコメント欄は、独り善がりの非難の言葉であふれている。誰もが何か一言、言いたい。でも、相手の話をよく聴いた上で発言しているのか、疑問だ。
僕は打ち合せの前半、たいがい一番寡黙だ。じっと黙っているから、僕にその仕事が本当にできるのか、疑いの目で見る人さえいる。この沈黙には、実は意味がある。相手の言うことを注意深く聴かないのなら、その人の役に立つことなどできるだろうか。クライアント、生活者、そしてチームの仲間たちの役に立てることが。きちんと話を聴いた上で初めて、自分の知識と理解に基づき発言する準備ができた、と僕は感じる。
クリエーティブ・パーソンとして優れた仕事をしたければ、相手の気持ちになって考えることが何より大切だ。けれど普段目にする広告の多くは、相手に共感し、理解しようとしているとは思えない。流行に乗っただけの広告。かっこよさげな手法におぼれている広告。
こうした相互コミュケーションの不在は、クライアントにも当てはまる。仕事を競合にしたいと思うのは、担当広告会社が話を聴いていないと不満を抱くときだ。「自分たちの利
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