【映画評】ナラタージュ
ナラタージュ (角川文庫) [文庫]
映画の配給会社に勤める泉は、雨を見ながら過去を思い出していた。大学2年生になった泉は、高校時代の恩師・葉山から、電話で、演劇部の卒業公演に参加しないかと誘われる。葉山は、学校になじめず孤独だった泉を演劇部に入るように勧め、救ってくれた人物だった。葉山に好意を持っていた泉は、卒業式の日の葉山とのある思い出を封印してきたが、再会を機に抑えていた気持ちが募っていく…。
高校教師と生徒として出会った男女の、一生に一度の愛を描くラブストーリー「ナラタージュ」。原作は、2006年版“この恋愛小説がすごい”で1位に輝いた島本理生の小説である。タイトルのナラタージュとは、ナレーションとモンタージュを掛け合わせた言葉で、映画などで、ある人物の語りや回想によって過去を再現する手法だ。この映画では、社会人になった主人公・泉が、大学時代を回想し、さらに高校時代をも思い出すという二重の回想スタイルになっている。教師の葉山を慕う泉、精神状態が不安定な妻を捨てられない葉山、泉が葉山を想っていることを承知で付き合う小野の3人の、それぞれの心情を描いている。
泉は映画好きという設定で、劇中にいくつかの名作が登場するが、回想形式で物語を語るのは、スペイン映画「エル・スール」へのオマージュだろう。だが、本作が、成瀬巳喜男監督の名作「浮雲」をより強く意識しているのは明らかだ。どうし
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