近ごろは、経済予測の有用性を軽くみるどころか、悪口さえいうのが流行している。その理由は簡単である。予測者のいうことが当たるより、間違うことのほうが多いと思われるからだ。それでも、未来の経済の不確実性に対処する手段として、これに優る方法は誰も開発していないようで、ほとんどの米国企業は、何らかの予測技術を採用している。ところが、例外はある。例えばロイヤル・ダッチ・シェルがそうで、シェルは1960年代の終わりから1970年代の初めにかけて、“シナリオ・プラニング”といわれる技法を開発した。シェルのトップは、プラナーの作成した世界の事業環境分析に耳を傾けたがゆえに、1973年の石油危機に関し、時期は予測できないまでも、その起こりうる事態を予測し、万全を期すことができた。さらに1981年、イラン・イラク戦争勃発後の混乱期に、他の石油会社は在庫の積増しをはかったが、シェルは余剰在庫を一掃した。果たせるかな、やがて石油過剰が表面化し、価格は暴落した。
間違いなく、多くの読者はシナリオはよく知っていると信じておられるだろう。しかし、ヨーロッパのシェルが開発した意思決定シナリオは、普通の米国版シナリオとは似ても似つかないものである。本稿と続編(次号、3月号)において、著者はシェルのシナリオの歴史とトップマネジメントに与えた究極的インパクトを紹介している。
Source: ハーバード
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