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金持ち編集者 貧乏編集者

 ぼくが編集者として働き始めたころ、まったく異なるタイプの先輩の編集者がいた。ひとりは金持ち編集者、もうひとりは貧乏編集者と呼ぼう。 ぼくは左派系の集まりやイベントによく顔を出していた。そこで出会ったのが貧乏編集者だ。いわゆる人文書にはリベラルや左派的な考えを持つ人が多い。しかし、そのなかでも一目置かれているぐらいの硬派な編集者だった。 分厚くて難しいゴリゴリな本をかっこいいデザインで出版した。内容も尖りすぎていて万人受けしなかったが、人文業界の評価は高い編集者だった。 ぼくは貧乏編集者に憧れていた。あんなふうに尖った本をつくりたい、と思った。しかし、ぼくの考えた本の企画はぜんぜん会議を通過しなかった。ぼくの企画書をことごとく却下した編集長が、金持ち編集者だった。 金持ち編集者はミリオンセラーも出したことがある伝説的な編集者だった。編集者の仕事とは書き手の表現を本という商品に成立させることだ、とぼくに教えてくれた。本が売れて利益が上がる。そうやって初めて書き手に印税を渡せるし、私たちの給料も払えるんだ、と。売れない本の企画ばかり考えたぼくはよく説教された。  貧乏編集者に同業者の飲み会に何度か連れて行ってもらった。同じようにお堅い人文書を出している中小出版社の人が集まっていた。同じようにリベラルや左派的な考えの持ち主が集まっていた。ぼくが太田出版の人間だとわかると、その一人に「百田

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