行動経済学から読み解く長時間労働
本稿では行動経済学の観点から,なぜ,人々が長時間労働をしてしまうのかを議論する。行動経済学では労働者の選好や特性に着目をする。労働者の選好や特性を把握するために独自アンケート調査を作成し,A 社内で調査を実施した。調査データとA 社から提供を受けた人事データを組み合わせて行った 3 つの分析を紹介する。第 1 に,長時間労働しやすい人の行動経済学的特性を明らかにする。子供の頃の夏休みの宿題を後回しにするといった先送り傾向のある人は深夜残業しやすいことがわかった。また,他人のことを気にする人ほど残業時間が長いこともわかった。第 2 に,A 社内で行われた働き方改革の政策評価を行い,行動経済学的特性によって働き方改革の効果に異質性があるかを議論する。 A 社は月の残業時間上限を原則 45 時間とし,働く場所と時間を自由にする働き方改革を行った。その結果,改革前において月 45 時間以上の残業をしたことがある人の残業時間は有意に減少した。中でも,先送り傾向のある人や他人のことを気にする人の残業時間が削減された。ただし,これらの人は,働き方改革後も依然として残業時間が長い。第 3 に,個人の労働時間は同僚の労働時間の影響を受けるかを明らかにする。同僚が長時間労働しやすい人ほど,労働時間が長いことがわかった。働き方改革には長時間労働を是正する効果が見込まれる。より効果を発揮するために,行動経
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