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西部邁氏のささやかな回想 — 吉岡 研一

経済ニュース
私は一度だけ、西部邁氏の講演を聞いた事がある。場所は横浜市のある区の公会堂だった。
当時、西部氏は「朝まで生テレビ」に出始めた頃だった記憶する。偶然、控室のドア越しに、関係者と静かに談笑する西部氏を見たが、あの眼の輝きは忘れられない。眼窩から光が溢れ出ているといった様子だった。
「朝生」に出演中の西部邁氏:編集部
講演の内容はリクルート事件や消費税やマドンナ旋風などの時事ネタを織り交ぜながら、大衆社会、民主主義批判を展開するもので、生涯を通じて語られる主題がすでにそろっていたが、それらはさほど興味が持てるものではなかった。
ただ一つ印象に残ったのは、リクルート事件にかこつけた「濡れ手に粟」という批判に対して、マンデヴィルの「蜜蜂物語」を引用していて反論していた事だ。ある評論家が田中角栄擁護にこの書を引用していたからだ。自民党擁護者の共通文献だったのか、一瞬そう思った。
私が惹かれたのは、講演内容より、むしろその語り口だった。その論の進め方や説明の仕方は、快刀乱麻を断つというより、鉈で節くれ立った堅木を割る様な素朴な力強さがあり、批判の仕方は論破というより説破という趣があって、日本人の心理、生理に合っていると思った。
講演の最中に、今でも印象鮮やかな出来事があった。西部氏は、もの静かにとつとつと語っていたが、突然、マイクが故障した。即座に別のマイクに替えられたが、珍しい事にそれも使え

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