前回に引き続き、八幡和郎氏の反論に回答する。
日文研サイト、BS朝日サイトより:編集部
人生経験は歴史研究に益するか
八幡氏は
呉座さんが分かってないと思うのは、自分が文献資料の分析だけのプロだということだ。だから、資料の発見とか整理や評価はプロのはずだが、解釈能力があるかどうかは別だ。解釈は森羅万象についての知識、推理能力、人生経験などがものをいうから、文献史家がプロとしての優位性をもっているとは言い切れない
と述べる。
こういう誤解をしている歴史愛好家は非常に多い。私が大学院生の頃、定年退職して大学の聴講生として日本史学研究室に出入りしている方がいた。その人は「歴史なんてものは若い人には分からない。人生経験を積んでこそ分かるのだ」と主張されていた。だがもちろん、大学院生の方がその方より史料が読めるし知識もあるので、みんなで色々と指導するのだが、自分の息子や娘より年下の若造たちに指図されるのが癪に障ったようで、そのうち姿を見せなくなった。
当時の私は「困ったお年寄りだな」と思っていた。けれども今にして思うと、その方は自己流の独学ではなく大学でしっかり歴史学を学ぼうという意欲を持っていたわけだから、歴史学の初歩すら学ぼうともしない八幡氏よりは立派である。
史学概論などで歴史学の学生が最初に学ぶことは、「私たちは過去を直接体験することができないから、史料という媒介物を通じて過去に迫る
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