ベストセラー『日本国紀』は、その売れ行きが話題になっている割には、その内容についての論争は低調だ。
その理由は、批判に対する百田尚樹氏の側からの反論が戦後史観批判の一般論や、自分が執筆にあたってとったスタンスの説明に終始して、内容についての批判にはあまり応えていないからである。
日本国紀 [単行本]
百田 尚樹
幻冬舎
2018-11-12
私も発売の直後に、かなり詳細な間違いや矛盾の指摘をアゴラに書いたが、反応は間接的なものに留まっている。普通の歴史本の著者ならば、反論なり修正なり説明が行われるはずが、作家というものは、そういうことはしないということだろうと思うし、それは予想されたことでもある。
しかし、それでは困るのは、この『日本国紀』は日本人の歴史観にかなりの影響を与えるだろうし、その内容を信じる人も多いだろうから、疑問に対する反論があるならするべきだし、修正した方が良いと思ったらするべきなのである。
もっとも、この国では、学校教育以外の場では、歴史本より歴史読み物が幅をきかせ、しばしば、歴史小説で歴史を学ぶ人が多いのである。かつて、私は、小泉元首相が、『私の本棚』(早野透)という本に収録されているインタビューで、彼がもっぱら小説を読んで歴史を学んでいると語っているのを見て、これでは、本物の歴史を学んでいる外国首脳とまともな会話も交渉もできないだろうと批判して
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