古今東西、分野を問わず、ドイツの哲学者ショーペンハウアーやジャーナリストの徳富蘇峰等を始め、多くの著名人が自らの読書論を語っている。私は若き政治学者・岩田温を、この中に加えたい。
政治学者が実践する 流されない読書 [単行本(ソフトカバー)]
岩田 温
扶桑社
2018-09-21
人が集まれば、必ず政治が営まれる。政治は人と人とが織り成す人間模様そのものであり、どの分野の本であれ政治学とは無縁ではいられない。その意味で、本書は政治学者・岩田温による政治学入門のシラバスと言ってよいだろう。例えば、本書で紹介されている松本麗華の「止まった時計」は、決して後生名著と言われることはないだろう。
しかし、それでも一人一人の人間の持つ多面性や、自分自身の立ち位置によって人の評価が如何様にも変わりうることが、赤裸々に語られている。また、ワシーリー・グロスマンの「万物は流転する」は、スターリン時代のウクライナを舞台とした全体主義に対する警告の書である。一方で、著者は訳者である齋藤氏に光を当て、同書が日本語訳されたことの意義を語る。訳者が若き日にソ連を美化したことへの反省は、我が国の戦後の思想潮流を振り返る上でも重要な視点だ。
数々の作品を紹介する中で、著者は文芸評論家としての顔も見せる。著者に勧められて、本書でも紹介されているオー・ヘンリーの「改心」を私も手にとったことがある。この物語は本
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