有馬純 東京大学公共政策大学院教授
今春、中央環境審議会長期低炭素ビジョン小委員会がとりまとめた報告書では、長期の脱炭素化に向けた施策の中核としてカーボンプライシングを挙げている。この問題については、今後、国内的にも様々な議論が行われることになるだろう。その際に留意すべき論点をいくつか紹介したい。
まず頭の整理が必要なのはカーボンプライシングの定義である。環境関係者は「カーボンプライシング=排出量取引や炭素税等、政府が人為的に炭素に価格付けをする施策」と論ずる傾向があるが、これはミスリーディングである。
炭素の価格付けとは、炭素排出に伴ってコストを負担させることと同義であり、例えばエネルギー課税はエネルギー消費に伴うCO2排出に負担をもたらすものであるため、これも「立派な」カーボンプライシングである。固定価格購入制度(FIT)に伴うコストを、それによって削減されるCO2で割り戻せば1トン当たりのコストを計算することが可能だ。省エネ基準等の規制的措置、政府によるグリーン調達活動や省エネラベル等を含む情報提供、エネルギー環境分野の研究開発投資等に加え、産業界の自主行動計画も温室効果ガス削減をもたらしており、これらの施策に伴う炭素1トン当たりの削減コストもカーボンプライシングに含めることができる。排出量取引や炭素税は専ら温室効果ガス削減のために政府が人為的に炭素に価格付けを行う施策であり
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